「最高の品質を求めて」126年の伝統を守り続ける京菓子原材料専門店の名店

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京都府

日本国内の菓子業界は少子高齢化と人口減少の影響を受けて頭打ち状態にある。2023年はコロナ禍が一段落し、生産金額や小売り金額ともに前年を上回ったが、原材料高騰による値上げで顧客離れが懸念されている状況だ。
そんな中、126年の業績を誇る株式会社美濃与の代表取締役、長瀬文彦さんに話を聞いた。美濃与は、堅実に家業の理念を守り、伝統の技術や商法を継承し他の企業の模範となってきた「京の老舗」として表彰された京菓子原材料専門店だ。
長瀬社長は「菓子業界全体が後継者不足や気候変動の影響で厳しい状況にある。忙しい現代人にとって癒しとなる本物のお菓子を届けたいと考える菓子事業者様を縁の下で支えていきたい」と語る。
美濃与のこだわりは良質の原料を使って最高の製品を提供すること。伝統を守りながらも革新を追求する美濃与の取り組みは、京都の食文化を次世代に繋げる大きな力となっている。

PROTAGONIST

長瀬文彦代表取締役

他に追随を許さない徹底した高品質を目指して

美濃与は明治35年に京都で創業。和菓子の原材料の卸売販売を主な事業として126年以上の歴史を持つ老舗企業だ。初代が岐阜の美濃から京都に行商に出てきたことから「美濃与」は始まった。

創業当初は和菓子の総合問屋として米や栗の甘露煮、小豆、柏餅の葉など、和菓子に使われるあらゆる材料を取り扱ってきた。美濃与では、大納言の中でも最高級といわれる「丹波大納言」、餅米の王様といわれる「滋賀羽二重餅」などの高品質な原材料のみを取り扱っている。初代から続く「良質の原料を使って良いものを提供する」という信念を今もしっかりと受け継いでいる。

きな粉の原材料である大豆は特定の農家と直接契約して仕入れている。現地で意見交換を行うことで、大豆の栽培方法や収穫時期を厳密に管理し最高の原材料を安定的に確保できるのだ。

しかし、高品質の大豆を使っただけでは美味しいきな粉を製造できない。焙煎もきな粉の味や食感を左右する。焙煎は気温や湿度が変わる季節の変わり目がもっとも難しいそうだ。気温や湿度の高い夏と寒く乾燥する冬では、同じ焙煎時間でも大豆の仕上がりは異なる。

そのため、美濃与では職人が大豆の顔を見ながら、焙煎の温度と時間を毎回微調整し、大豆の風味と香り、滑らかさを最大限に引き出す焙煎状態に仕上げている。

いつ見られても恥ずかしくない製造工場に

2019年には、京都伏見に大豆専用工場を建設した。自社工場があれば大豆の選定から焙煎方法に至るまで、美味しさと品質を徹底的に追求できる。また、この工場に持ち込む材料は大豆のみであるため、コンタミネーションがない。

工場内の設備について、長瀬社長は「清潔であることは当然。見てもらって恥ずかしくない工場であるべき」と語る。大豆製品は直接口に入るものなので異物混入があってはならない。

製造ラインは密閉された環境で、なるべく人の手が必要ないよう焙煎・充填・梱包と作業部屋を分け徹底的な衛生管理をしている。

焙煎には、直火と温風の2つの方法があり、美濃与では温風を採用している。直火焙煎は浸透率が良いもののムラができやすい。その点、温風焙煎は豆全体をまんべんなく温められるため、焙煎のムラを防げる。そのため、温風焙煎のほうがきめ細かく滑らかなきな粉に仕上がるのだ。

また、工場では1回60kgまでの大豆を焙煎できる機械を使用している。大手製造会社が使用する1t規模の焙煎機に比べると小さな機械だ。しかし、小さいからこそさまざまな種類の大豆を少量ずつ焙煎できるため、顧客が必要とする量にぴったりと応えられる。小ロットで対応できることが、むしろ他社との差別化になっている。

きな粉はキロ単位の大袋だけでなく、他ではあまり見られない2〜15gの小袋で商品展開している。きな粉は酸化すると香りが飛びやすいため鮮度が重要だ。小分けにすることで、香りも良く使いやすいと顧客から好評らしい。

美濃与では、きな粉が滑らかで美味しい状態を保つため、製造後当日または翌日には本社に納品している。理想的には製造翌日に使ってほしいが、最低でも3日以内の使用を推奨するとのことだ。

健康に良いだけの大豆珈琲にはしたくない!

美濃与は伝統を守るだけではなく、新しい試みとして大豆珈琲の販売を始めた。これは社員が展示会に参加した際に持ち帰ったアイデアを実現させたものだ。大豆が持つ独特の風味と健康効果を兼ね備えた美濃与の新しい商品を目指し開発が始まった。日本国内には125種類以上の大豆があり、品種によって味や風味が異なる。

美濃与の大豆珈琲にふさわしい高品質な大豆の品種を見つけだすだけで1年を費やしたそうだ。選んだ大豆は北海道産のユキホマレ。糖度が高く、豊かな風味を残したい大豆珈琲の材料にぴったりだった。しかし、最初に試作した大豆珈琲はとても美味しいと言えるものではなく、ただのお湯のような味だったという。

焙煎する温度が高すぎると大豆が焦げて苦味が強くなり、低すぎると生っぽい味が残る。何度も試したものの、なかなか絶妙なバランスを見つけられなかったそうだ。焙煎中の大豆の変化を観察し、香りや味の成分がどのように形成されるかを細かくデータにしてチェックした。

「健康に良いというだけで売りたくない。買っていただくからには美味しいと思って飲んでほしい」そんな思いでじっくりと開発に向き合った結果、社員全員が納得できる美味しい大豆珈琲が完成した。

深い風味と大豆の自然な甘みが絶妙に調和したきな粉の香り、軽やかでほどよい苦味、すっきりとした後味が美濃与の大豆珈琲の特徴だ。

カフェインフリーなので、小さい子どもやご高齢の方、妊娠中の方も安心して飲める。

「同じ方が何度もリピートして買ってくれるんですよ。本当にうれしいですね」と顔をほころばせる長瀬社長が印象的だ。健康のためだけでは続かない。やはり美味しさは重要である。

季節折々の和菓子の風味を感じてほしい

昨今の物価高騰により、多くの原材料の価格が上昇し菓子業界に大きな影響を与えている。菓子業界全体に元気がない。

特に個人店や町のお菓子屋さんでは、原材料の仕入れ量を減らし、縮小を余儀なくされているという。さらに、事業承継のための跡継ぎ問題も深刻化している。

美濃与の強みは、豊富な品揃えと社内に研究機関を持つ点だ。「良質の原料を使って良いものを提供する」という信念を持ち続け、美濃与は最高のものを求める菓子店と取引を続けている。高級菓子店の高い要望に応えるためには、品質管理の徹底が必須だ。粗末なものを提供すると厳しく叱責される。

春を彩る桜餅、端午の節句に食べる柏餅、お彼岸にはおはぎなど、日本には季節を映し出す伝統の和菓子がある。コンビニでも和菓子が手軽に買えるようになり、季節のお菓子も一年中楽しめる時代になった。しかし、やはり旬の素材を使ったお菓子の風味は格別だ。長瀬社長は「季節ごとに旬のお菓子を味わい、その時季ならではの自然の趣を感じてほしい」という。

今後、日本の伝統的な和菓子店が海外に進出する機会も増えるだろう。そのときに「原材料を現地調達するのではなく、品質にこだわって製造した京菓子原材料で作り、本物のお菓子を食べてほしい」と長瀬社長は語る。

試食させてもらったきな粉は香り高くふんわりと滑らか。今まで食べていたものとは別物だった。これが長年の経験から作られた本物。美濃与のきな粉は絶品だ。

INFORMATION

株式会社美濃与

京菓子原材料専門店として、卓越された技術者の皆様に支えられ、今日まで歩み続けて参りました。国内産原料にこだわり、四季折々の「旬」を大切にし、生産者から加工者に至るまで他に追随を許さない徹底した品質向上に努めております。

特に、創業当時より手掛けてきた「きな粉」は、平成31年、自社専用工場を建設し、次代に通じる品質管理のもと、原料である大豆の品種、収穫産地、焙煎方法、粉砕に至るまで、自らの手でご要望に応じた様々な「きな粉」を製造しております。
特化した製品づくりは今後もこだわり続けて参ります。

創立
1902
ホームページ
http://minoyo.co.jp/
Writer:
GOOD JOB STORY 編集部

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