FCSの技術と情熱
工場の空間を最大化する搬送システム
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大阪府
2018年の秋、新たな風が大阪の地に吹き始めた。福澤崇浩氏はジェイ・エフ・シー・エス株式会社の代表取締役に就任。会社は装いを新たに生まれ変わった。大阪市大正区に本拠を構える同社は、工場の効率化に一役買う独自の搬送装置「フレキシブルキャリヤーシステム(以降FCS)」を強みに着々と実績を重ね、その技術力は留まることを知らず、最近ではベアリング業界に向けた専用機の開発にも乗り出している。福澤氏のリーダーシップのもと、同社は常に新しい挑戦を続け、製造業の未来を明るく照らし続けている。
事業継承の背景と今後の展開について、福澤氏に話を伺った。
PROTAGONIST
福澤 崇浩代表取締役
創業の歩み
創業者は佐野秀治氏。現代表の福澤氏は佐野氏の娘婿にあたる。佐野氏は1979年、大阪市西区に日本エアレーション株式会社を設立創業し、ベアリングの洗浄機や、ダイヤルローダー(搬送装置)、産業機械に関わるものを独自開発し販売していたが、1984年からFCSの開発を始め、それ以来FCSを中心にした企画開発と販売に舵を切った。
佐野氏はかつて、西部自動機器株式会社に勤務し、そこで金属の研削加工工程における「超仕上」と呼ばれる工程を担う機械の生産、販売に関わることとなった。同社の製品は高精密業界で重要な役割を果たしていたため、その取引先や営業先の多くのメーカーは独自の技術を持ち合わせていただけでなく、独自の課題なども抱えていた。それらの知見を活かして佐野が生み出したユニークな発想により、1984年に「FCS」が開発されて以来、ユーザーの声を聞きながら製品の改善を繰り返した結果、FCSは徐々に認知され、2005年に社名をジェイ・エフ・シー・エス株式会社へと変更した。2018年、佐野は約40年間の重責から降り、福澤崇浩氏に事業を引き継いだ。
次世代搬送システム「FCS」の誕生と進化
同社は、1984年にFCS製品の開発を始めた。「FCS」とはフレキシブルキャリヤシステムの略で、工場内の限られたスペースを有効活用し、効率的な3次元搬送を実現した新しい搬送技術だ。
FCSの3次元搬送とは、工場や生産ラインにおいて離れた2点間を独自のガイドレールで連結し、3次元軌道を走行するキャリヤで結ぶ搬送システムである。生産ラインの流れを止めずにワークピースを柔軟な経路で高速移動させることができるのが特徴である。開発を始めた年、大手企業メーカーの生産技術部門の担当者から打診があり「こういうことをできないか」という要求に応えるかたちで共同開発を行い、試行錯誤を繰り返した結果、原型となる新しい搬送装置が完成した。
一般的に搬送装置というと個別の直動機器の組み合わせを考え、その都度設計、製作する。当時、曲がったガイドレールを走行する台車という発想自体が先進的で、精密な機械を扱う分野においては非常に難しい技術であった。台車の脱線や部品脱落、消耗のリスク等が伴うので、開発に挑戦する企業は少ない。要求されたのは上昇、下降も複合的に連続走行するシステム。これが一番難しい。例えば、AGV(無人搬送車)ような自走式の搬送は有効に思えるが、水平方向に自由なだけでなく、これを上下方向にも確実に高速連続移動させるとなると至難の業だ。可搬重量をクリアし、走行スピードや繰り返し精度の安定性を確保し、過酷な生産ラインにおいて信頼を得るのは難しい。FCSはワイヤーロープを介して駆動するため、確実に台車を牽引するだけでなく、3次元軌道上を短時間で一気に目的地まで到達し往復することができる。
遅延リスクがなく、安定した高速走行を繰り返すことが可能だ。
ロープで牽引するような技術は、その代表としてエレベーターやリフトのようなものが挙げられる。ただ、産業機械の中で、FCSのように精密に3次元空間を高速走行するような搬送装置は現在でも結構珍しい。
「最初はワイヤーの消耗や断線などのクレームが多くありました。しかし、粘り強くユーザーの声を親身に聞き、研究、改善を繰り返してきたことで、産業機械として本当に耐えうるレベルに到達し、今では様々な生産現場で使っていただけるようになりました。今は “FCS-H300”という製品が主力です。ワークピースを高速かつ正確に搬送することが可能なだけでなく、可搬重量も増え、ワイヤーロープの長寿命化も年々更新されています。主に金属加工などの生産ラインの工程間搬送で多く採用されていますが、例えば、ベアリングを作ってる工場には各工程設備を連続させた非常に長い生産ラインがあります。そのような各設備間の排出位置から供給位置までを順次繋げていくような役割で採用されたり、通路を跨いだり、設備を跨いだりする目的で採用されていたりします。ベルトコンベヤ、AGV(無人搬送機)、AMR(自立走行搬送機)、ガントリーローダー、ハンドリングロボットなど様々な搬送機器がありますが、FCSは、それらではやや難しい状況や条件で唯一の選択肢になることも多いです。FCSは他と違った特徴を持つため、特殊な事情からくる結構レアな要求に応えられることもあり、思ってもいなかった需要が生まれたりすることがあります。実はそんなところに製品の強み、希少価値性、あるいは面白さを感じています。」と福澤氏は説明した。
建築士から経営者へ 福澤氏の挑戦と新たな一歩
福澤氏は、1級建築士として建築の世界にいた。建築系の大学で建築設計を学び、大学院まで出た。卒業後は10年以上建築設計事務所に勤務。福澤氏の妻も建築設計士である。
勤務先の建築設計事務所で中国に赴任し、結婚前の7年間は中国で過ごした。
「当時は北京オリンピックや上海万博が開催された時期と重なり、中国が目まぐるしく発展する様子を内側から観察しながら建築設計の仕事を純粋に楽しんでいました。しかし、日本で大きな震災があったことや、担当していた仕事の区切りもあり、やはり日本で役に立つ仕事がしたいと思うようになりました。そうして帰国しましたが、現実は簡単ではありませんでしたね。独立してしばらくの間は本当に仕事がなく、いろいろなことに挑戦しながらも、変化する社会の中で自分が本当にやりたかったことは何なのかを自問する日々が続きました。」と話した。
事業継承の経緯について福澤氏は「妻の父親の会社には素晴らしい製品があり、経営状況はしっかりしているし、会社の売上もまだ伸びている」と聞いていたが、当時社長の佐野氏は自身が高齢になったことや継承者の不在により、今後のことを考えM&Aなど検討しているという話が上がっていたという。
「妻がその頃、父の会社に少なくない関心を持ち、会社の継承について憂慮していました。」と福澤氏は振り返る。福澤氏自身は折に触れて会社の話を聞いているうちに、次第に事業継承に興味を抱くようになった。
「この小さな会社の中に珍しい技術が詰まっていて、それが業界的に貴重なものであったなら失うのは惜しいな、と思うようになったのです。」
事業継承問題という表面的には聞きなれた日本の社会問題であったが、もともとそこに興味があったわけではなかった。ただ、「リアルな状況に遭遇して、幸か不幸か自分が状況的に適任ではないかと思ってしまったんですよね。」と語る。
ある日、福澤氏が妻とそんな話を佐野氏の前でしていたところ、「おもろい考えやな。やってみてもええよ?建築にかかわる事業を取り入れてもええしな」と思いがけず気さくに言われた。妻は3人姉妹の末っ子で、他の姉妹以上に会社の継承に関心を寄せていた。福澤氏の専門は建築であり、機械の製造業とは距離があったが、「こんな機会はめったにないし勿体ないから継承してみようか」という結論に至った。
福澤氏は入社当時、佐野氏からの言葉もあったため将来は会社の母体を残しながらも、建築に関わる事業も取り入れたいと考えていた。しかし、入社して仕事に携わるうちに、機械の設計や開発、経営そのものにのめり込むようになった。
「結果的に建築からはだいぶ離れてしまいました。ただ、設計業務自体は建築でもやってきたことですし、機械的な動きのあるものを考えるのも全く苦ではないんです。顧客の工場の生産性を上げる機械を考えて提案して実現することには、少なくない快感さえ感じています。実はハマり役でしたね」と笑顔で語る。
海外市場への進出 JFCSの展開と今後の課題
同社は韓国やタイなどに販売代理店を持ち、海外展開を進めている。特に韓国では20年以上前から代理店が活動しており、韓国経由でメキシコなど他国に製品を供給することもあるという。
「今後は、製品の改良や新素材の採用を進め、これまで以上にバージョンアップを図りたいと考えています。コツコツと顧客の要望に応じて製品を改良し、長く使ってもらえるよう努めています。また、海外展開をさらに広げ、グローバル市場でのシェア拡大も目指しています」と福澤氏は意気込みを語る。
このように、JFCSは独自の技術と顧客ニーズに応じた柔軟な対応によって、3次元搬送装置の分野で確固たる地位を築いている。しかし、今後の課題もある。
「結構珍しい製品であるため、導入した工場の担当者によっては純粋にFCSという製品自体を気に入っていただいている場合があります。それがまたやりがいと喜びにつながる一方で、大きな責任も感じています。売り上げは正直なところ伸び悩んでいます。一番の顧客である自動車業界ではどの工場も大きな変化を迎えており、さらに世界情勢も先が読めない状況です。今後、私たちもどのように生き残っていくかという課題に直面しています」と述べた。
課題を抱えながらも、海外展開や製品の改良に力を注ぎ続ける。その挑戦は、これからも新たな可能性を切り拓いていくに違いない。
INFORMATION
ジェイ・エフ・シー・エス株式会社
私たちは、安全・安心・革新を大切にし、クリエイティブな搬送自動化システムを通じてお客様に最適なソリューションを提供します。
公正で透明な企業活動を通じて、国際社会から信頼される企業を目指します。
また、社員の豊富な経験と技術を活かし、実用的かつ信頼性の高い製品を提供し、産業の発展と持続可能な成長を支えます。
- 創立
- 1979/4/10
- 従業員数
- 11
- ホームページ
- https://jfcs.jp/
- Writer:
- GOOD JOB STORY 編集部