高品質×短納期で全国に選ばれる京都の町工場
ランドマークを支える金属加工の実力
- 金属鉱業
- 地域のための取り組み
- 多様性を考える
- ユニークな商品・サービス
- SDGs・サスティナビリティ
- 若手社員が活躍
大阪府
東京ミッドタウン、六本木ヒルズ、ディズニーランド、USJ。その舞台裏を支えているのは、ある京都の小さな町工場の技術だ。
昭和44年創業の三和金属工業は、建築金物や機械部品、什器、厨房器具、映像設備まで、あらゆるものをゼロから形にしてきた金属加工の専門企業。日本国内に4つの製造拠点を構え、圧倒的な短納期と、量産でもぶれない品質の高さを評価され、全国からの多様なニーズに応えている。
この記事では、三和金属工業株式会社(以下、三和金属)の強みや今後の取り組みについて、代表取締役の 天羽 正明(あもうまさあき)さんに話を伺った。

PROTAGONIST
天羽 正明代表取締役
わずか10歳でプレス加工を経験

三和金属は現社長天羽氏の父が創業した。同時期に天羽氏の叔父が株式会社三英金属を創業。父がプレス加工、叔父が営業を担当し、創業当初はハウスメーカーの下請けをしていた。天羽氏は小学生の頃から工場に通い、遊び場はいつも機械のそばだったという。会社を継ぐことは意識していなかったが、小さい頃からものづくりは好きだったそうだ。
「プレス加工を初めて踏んだのは10歳の時です。高校卒業と同時に家業に入りました。その頃最もお世話になったのが三英金属の叔父でした。私が京都に出てきた当初、大阪にいた父親よりも、叔父の元で営業の仕方や仕事の仕方を教わった記憶があります。社長に就任してからは12年になります。入社当初は土日も夜中も働き詰めでしたが、この年まで迷いもせず、ただ『ものづくりが好き』という思いだけで一心不乱にやってきました」
数年前、三英金属の2代目が急逝したことを受け、他の選択肢がない状況の中で三和金属は三英金属の子会社化を決断した。天羽氏は、三英金属がまだ更地だった頃からその様子を見て育ち、叔父が語っていた「この一帯を自社工場で埋め尽くしたい」という夢をずっと聞かされていたという。
「三英金属の事業継続が難しくなったとき、まず頭に浮かんだのは、社員の雇用と、これまで築かれた技術や拠点をどう守るかということでした。ただ、状況は厳しく、最終的には子会社化という道を選ばざるを得ませんでした」
当時三英金属には数名の社員が残っていたが、高齢や本人の希望もあり少しずつ離職。全員を守れないもどかしさを感じつつも、叔父の会社を他人の手に渡すわけにはいかないという思いも強くあった。葛藤の末、両社の歴史や叔父への恩を胸に覚悟を決めた。
現在は、精密板金、ステンレス・アルミの加工・溶接を主力とし、精密製缶やプレス加工も手掛けている。東京ミッドタウンや六本木ヒルズ、ディズニーランド、USJのエレベーターをはじめとしたランドマーク設備のほか、医療・交通・公共施設向けの高精度製品も手がけている。すべて顧客の依頼に基づき、仕様に合わせて1から製造している。
「中国製の安価な製品に仕事が流れ、大変な時期もありました。うちも機械を入れてコストダウンを図ったり、スピードを上げたりとできることは全てやりましたが、それでも相手は価格が半分。正直、太刀打ちできないと感じました」
しかし、そこから10年以上かけて少しずつ変化が見えてきた。価格だけで選んだ結果、「これじゃダメだ」「やっぱりちゃんとしたものがほしい」という声が、じわじわと上がってくるようになった。
「調達担当は当然、安いほうを選びたがります。でも実際に使う人たちが『きれいな仕上がりやな』『丁寧やな』と言い、『この会社の製品じゃないと困る』と守ってくれるんです。その声が最終的に私たちの仕事を支えてくれました。特に若い人が値段じゃないと言ってきてくれるのが嬉しいですね」
三和金属が品質を守り続けていることが、しっかりと伝わった結果だろう。
高い品質は技術だけでは生み出せない

三和金属の強みは短納期・納期厳守、そして品質へのこだわりである。短納期が一般化する30年以上前から、納期を守る姿勢を徹底してきた。注文当日発送や翌日配達にも対応している。また、品質や寸法の検品を徹底。顧客の期待以上の商品を納品する姿勢は創業時から変わらない。
「高品質の商品を確実に届けるという基本を、父のときからずっと守り続けています。1個だけ物を作るのは意外と簡単できれいに作れます。でも、それを同じ品質で20個作るのは難しいんです。それができるようになるために、日々の仕事で経験を蓄積していきます。手を抜かないことは、結局は自分との戦いです」
品質へのこだわりは、単なる作業レベルの問題ではないという天羽氏。ものづくりを通して「嘘をつかない」「ごまかさない」という経験が、人間的な勉強にもなると語る。
エレベーター業界に参入した当初は、社長と弟、溶接担当の3人しか対応できないほど難易度が高かった。職人の技を学ぶために新潟県燕三条の研磨屋さんにも足を運んだという。見た目への厳しい要求に応える中で、品質の基準が自然と上がっていったそうだ。
「その道のプロが惜しみなく教えてくれて本当に感謝しています。真似はできないけど、教わりながらその奥深さに触れていく。そこに面白さがあるんです。金属加工に限らず、何かを極めた人は、あれもこれもと手を出しません。その分、全身全霊で技術に向き合います。金属加工の仕事は伝統工芸ではないけれど、技術だけでなく人間としての思考力も必要で、10社あったら10個違う製品ができます。これだったら喜んでくれるかな、と思うはるか上を目指さないといけないんです」
顧客からの厳しい要求に応える中で、社員一丸となって努力することで成長してきた。天羽氏は三和金属を「顧客と職人に育てられた会社」だと語る。

現在は、試作から量産まで、スチール、ステンレス、アルミといった多様な素材、複雑な形状に対応している。2003年には超高速レーザー加工機を導入し、精度とスピードをさらに向上させた。そんな三和金属の対応力は口コミにより広がり、近年、北海道から沖縄まで全国から依頼が集まっている。
外国人を採用することで自社の文化が改善された
製造業界では人材確保がしばしば課題となる。若い人にとってブルーカラーでもあるものづくり。お世辞にも人気の職業ではないため、若手採用は難しい。また、前職での習慣が染みついている中途採用者の即戦力化にも時間がかかる。子会社化に伴う再スタート時には19名が入社したが、定着には至らず。
まずは戦略のひとつとして「女性だけの工場」を構想。テレビで女性が溶接する姿を見たことがきっかけで、「女性にもできる仕事だと伝えたい」という思いがあったという。
「実際には女性だけで工場を回すのは難しいと感じました。将来的に出産の可能性がある中で、溶接による紫外線リスクを考えると、積極的に任せにくかったからです。現在は、女性ならではの繊細さを活かし、レーザー加工や顧客対応といった工程を中心に活躍してもらっています。」
しかし、工場で働く人材確保の課題は残る。悩んだ結果、これに対応するため、外国人雇用に踏み切った。
「最初は正直、コミュニケーションに自信がなく、外国人を雇うのには反対でした。でも、人がどうしても足りず、採用せざるを得ない状況になったので4人のベトナムの方と面接しました。当初はエンジニアとして2人だけ採るつもりでしたが、結果的に全員優秀だったので、4人とも即採用しました。3年で帰る実習生ではなく、腰を据えて働いてもらえるので、非常に助かっています。今ではベトナム人の従業員が21人になりました。『僕たちにもっと仕事させてください』と言ってくれるのが、すごくうれしいですね。ちゃんと勉強してくれて、ちゃんと答えてくれて、ちゃんと仕事してくれる。今や会社にとってなくてはならない存在です」
ベトナム人エンジニアの雇用は、社内文化に大きな変化をもたらした。言葉が通じにくい彼らに教える過程で、今まで曖昧だった指示を言葉にする、ちゃんと教えるといった意識が高まり、社内のコミュニケーションや人間関係が改善されたそうだ。また、外国人人材の仕事に対する真摯な姿勢や勉強熱心さは、他の社員にも良い影響を与えていると語る。
ものづくりの価値を高めるために

三和金属工業では現在、東南アジアを中心に製品展開や加工協業を視野に入れ、販路拡大と事業連携を積極的に模索している。他社との差別化を図る中で、「1ミリ単位でオーダーできる金属製棚」というアイデアが生まれ、「ジャストシェルフ」事業を立ち上げた。
ジャストシェルフは、単に安価な棚を提供するのではなく、ヨーロッパで売られているような高級路線をターゲットとしている。知人のデザイナーと協力し、強度や美観を追求したデザインを形にしたそうだ。
「販売当初は、どうしても安価な棚と比較され、『1mmで対応できるとはいえ、高すぎる』との声が多くありました。でも、近年の展示会では品質を評価する声が増え、「価格を下げるべきではない」との意見をいただくようになったんです。それで改めて、値段ではなく品質で勝負することにしました」
最近は単なるシェルフ販売だけでなく、複雑な形状の加工も可能であることで、他につながる新たな話が増えているという。
「ものづくりをしたいという人はまだいるはずです。ものづくりが好きで、地道に打ち込むことができる人材を育て、そうした人たちが活躍できる場所を守っていくことが、今後の製造業の発展と人材育成の要になると考えています。先日、ドバイとタイに行きましたが、日本の京都ということでネームバリューもありますし、日本のファンの方も意外に多いんです。海外の方から評価いただくことは多いので、もっともっと自信を持って売り出していきたいですね」
三和金属工業では、東南アジアを中心に製品展開や加工協業を視野に入れ、1mmでオーダーできる「ジャストシェルフ」の販路拡大や提携先との連携を模索している。品質を重視する顧客層や、製品流通・営業に強みを持つパートナー企業との協業を通じ、国内外での新たな事業機会の創出を目指している。
INFORMATION

三和金属工業株式会社
昭和44年4月よりステンレス、アルミを主要とする板金加工業を開業、昭和59年6月6日付けにて会社組織に変更致し、三和金属工業株式会社を設立。最新鋭の機械を導入する事によりお得意さま各位の要望である品質向上、納期の確約に最善を尽くし、努力しております。
- 創立
- 1696
- ホームページ
- https://sanwa-kinzoku.co.jp/
- Writer:
- GOOD JOB STORY 編集部