職人技が光るオーダーメイド製品で差別化 エキスパンダーロール製造70年の歴史
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大阪府
大阪染織機械株式会社(以下、大阪染織機械)は、エキスパンダーロールという湾曲した形状のロールを製造している。エキスパンダーには「広げる」という意味があり、形がバナナに似ていることから、以前は「バナナロール」とも呼ばれていたこともあった。
エキスパンダーロールは、トイレットペーパーや印刷用紙、生地などの製造工程で生じたシワを湾曲したロールを通して除去するもので、高品質なシート製品の生産には欠かせない存在である。
日本国内で現在この製品を製造しているのはわずか3社のみ。大阪染織機械はそのうちの1社として、70年以上の歴史を誇り、ニッチな市場で強みを発揮している。
この記事では、大阪染織機械株式会社 代表取締役社長 山本哲士さんに話を伺った。

PROTAGONIST
山本哲士代表取締役社長
染織機械製造からエキスパンダーロール製造事業にシフト
大阪染織機械は1951年2月に創業。当初は染織機械製造を主力とした「冬木鉄工所」を名乗り、地元産業を支える技術者集団として歩み始めた。しかし、染色機械を製造する際、シート製品にシワが生じるという問題に直面する。
「その頃、海外視察で曲がった形状のロールが存在することを知り、それをヒントに日本で初めてエキスパンダーロールを形にしました。最初は同業他社と協力しながら技術開発を進めていたのですが、その後それぞれ独自の路線を歩むことになりました。現在、日本でエキスパンダーロールを製造している会社は3社のみです」
創業当初は、染色機械の製造販売が主力事業だった大阪染織機械だが、1990年代の繊維業界の衰退に伴い、エキスパンダーロール製造に専念。一般的なストレートロールは、ゴムのついたロールをベアリングで駆動しモーターで回転させる仕組みだが、大阪染織機械株式会社のエキスパンダーロールは駆動装置を極力使わず、フリー回転できる構造になっている。この方法ならシートとロールが一体となってスムーズに回転するため、シートのズレを防ぐのに効果的だ。
「今は最先端のバッテリー関連や半導体の製造にもエキスパンダーロールが使われているんですよ。また、みなさんがご家庭で使われているアルミ箔も、こうした技術でシワを取り除いてから販売されています。一般の方は、トイレットペーパーやアルミ箔などの製品を目にしても、その製造過程でシワを伸ばすための機械が使われているとは思いもしないですよね」
世の中には似たような技術はあるが、大阪染織機械の技術は精度が高く回転の軽さが優れているため、シート製品の生産ラインにおける安定性が確保されているという。これは、染織機械の時代からあった技術に改良を重ねて独自の技術を築いてきた結果だ。職人技ゆえに大規模な販路拡大は難しいが、職人の技術を活かした高品質な製品づくりに特化している。
外部の技術を取り入れて変革

山本さんが大阪染織機械に入ったのは2018年。婿養子で会社を継いだ。もともと工業系の高校を卒業後、設備機械のメンテナンスや営業の現場で10年以上働き、ものづくりが好きだった。だが、会社を継ぐとなると話は別である。自分に務まるだろうか、と抵抗もあったという。しかし、会社の歴史や技術を知り、非常にニッチでありながらも価値のある仕事だと感じたことで、これを後世に残したいという思いが強まり、後を継ぐことを決めたそうだ。
2022年6月、山本さんは4代目として正式に就任した。少人数の職場であるがゆえに、跡継ぎとしての信頼を築くことが課題だった。一番大変だったのは現場の人間関係だったという。
「娘婿の立場だったので、社員からすると他人のような存在です。意見の食い違いもあり、その調整に苦労しました。また、弊社は家族的な雰囲気の会社なので、昔ながらのやり方が色濃く残っていましたが、外部からの情報を取り入れて変革を進めました。以前は『これが当たり前』とされていたことも少しずつ改善できています」
事業を承継する際、皆が1度は通る道かもしれない。
山本社長は、SNSを活用した情報発信にも積極的だ。会社の製品や加工風景を投稿することで、国内外から注目を集めるようになった。
「SNSを始めた理由は、弊社の名前を知ってもらうためです。当時、5,000人ほどのフォロワーがおり、特に抵抗なくSNSを運用していました。ただ、最初は会社の製品やエキスパンダーロールの紹介を投稿してみたものの、反応はほとんどゼロでした。何か工夫が必要だと思い、複数のアカウントを作成し、加工風景や別の視点から見た内容を投稿するようにしました。すると、ある日、インスタグラムに投稿した動画が海外の視聴者にバズったんです」
2023年3月に再投稿した鉄球加工の動画が話題となり、わずか2週間でフォロワーは1万人を突破。その後、取材依頼が続き、月内に4万人近くに達したという。

「テレビ東京やAbemaTVなど、多くのメディアから取材を受けました。取材依頼は全て向こうからお声がけいただいたものです。『こんな技術を持った会社があるのか』と興味を持っていただけたようです。これが大手企業であれば話題にならなかったかもしれませんが、町工場だからこその面白さがあったのかもしれません」
取引先の担当者さんから「鉄球の投稿を見ましたよ」と連絡もあったそうだ。少しずつだが、確実に広まっている実感があるという。SNSを通じて、無名の町工場が注目されるようになる。今の時代なくてはならない戦略かもしれない。
オーダーメイド対応で他社と差別化

エキスパンダーロールには湾曲の固定式や湾曲自在式、真空機械内で使う特殊仕様のものなどさまざまな種類がある。これらは、見た目は同じだが、内部構造が異なる。組み方一つで機能が大きく変わるとか。
「海外製のエキスパンダーロールのメンテナンスや修理も弊社で対応できます。一般的には修理時に自社製品に置き換えることが多いですが、弊社は元の製品を再利用しながら修理を行います。車で例えると、正規ディーラー以外でも修理ができる整備工場のような立ち位置ですね。そのため、コストを抑えつつ、機能を維持できるんです」
さらに、図面がない状態でも製品を分解し、再組み立てできるとか。全ての部品を確認し、オリジナルに近い形で修復・改善する技術を持っており、どんな形状や仕様のエキスパンダーロールにも対応可能である。
量産型で安価に提供されることも多いエキスパンダーロールだが、品質や耐久性を優先し大阪染織機械のエキスパンダーロールは基本的にオーダーメイドがほとんどだという。シート製品の種類や使用環境は紙とフィルムで異なり、スピードや温度の違いで適した素材が変わるため、他の仕様を流用すると壊れてしまう可能性が高い。大阪染織機械では、顧客の要望を聞き、オーダーメイド対応にすることで業界内での差別化を図っている。
「もし他社と同じように量産型にシフトしていたら、資本力の差で競争に勝てなかったでしょう。しかし、オーダーメイドに特化するためには、オンリーワンの技術力を維持しなくてはいけません。手間のかかる難しい案件でも、大阪染織機械なら対応できる技術と体制を整えています」
エキスパンダーロールの構造や素材選定は製品に合わせて異なるため、職人の高度な判断力が求められる。大阪染織機械では、高速で流れるシート製品には金属製ロール、摩耗が激しい環境では耐久性に優れた素材を使うなど仕様を変えて対応している。
しかし、最新の電動化や角度調整機能などは、大手が得意なのではないだろうか?その点について、山本さんは以下のように語る。
「正直、その点は資金力がある大手企業が強いですね。弊社は既存の設備を活用して対応しているため、大手にはない柔軟性があります。最近は、特許技術を持つ方や大手企業の技術責任者とも対等に技術の話をすることが増えてきました。ただ、こうした技術はあまり表には出していません。見えないところで勝負をしています」
標準化された量産品とは異なり、完全オーダーメイドで製品の品質や耐久性を追求していることが、業界内外で評価され、多くの企業からリピートの依頼を受け続けている理由だと推測される。
海外市場やメタバース市場など新たな展開へ

製造業全体としては、エキスパンダーロールの技術をどう継承していくかが大きな課題となっている。山本さんにも衰退してはならないという強い思いがある。大阪染織機械が持つ手作業や高度な加工技術は機械では難しく、そのほとんどは代替できないものだ。
「30年前は現場の職人が自力で問題を解決するケースが多かったですが、今は『失敗したらどうするのか』という責任問題が優先されてしまう。そのため、柔軟な発想が制限され、新しいアイデアが生まれにくくなっていると感じています。弊社は『最先端の機械やAIに負けない』という意識で職人と共に技術を進化させていくつもりです」
山本さんは時代に合わせた柔軟な取り組みが、技術力の進化と継承につながると考えている。また、今後は自社の技術を海外市場にも挑戦したいという思いもあるとか。
「海外展開には資金が必要なので、大きなプロジェクトに踏み切るのは難しいのが現状です。SNSを活用して少しずつエキスパンダーロール技術を知ってもらうことで、新たな機会を生み出していきたいですね。将来的には、メタバースなど新たなプラットフォームにも対応できるようにしていきたいです。弊社は「日本で唯一の技術」を持つことに誇りを持ち、これからも新しい技術を生み出し、製造業を盛り上げていきたいと思っています。」
エキスパンダーロール製造というニッチな分野において、唯一無二の技術を磨き続ける大阪染織機械。その確かな技術力と挑戦する姿勢は、時代を越えて日本のものづくりを支え続けるだろう。
INFORMATION

大阪染織機械株式会社
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